スライムさんすこしがんばる

このひまをどのように

情緒の純度を高めた蒸留酒のような短編集 ケン・リュウ『紙の動物園』

獺祭酒粕焼酎をこの前初めて飲んだ。というか酒粕焼酎を初めて飲んだ。おいしかったのでスイスイ飲んでいたらすぐに酔っぱらった。アルコールが実に30数パーセントも入っているとは思わなかった。

下手くそなたとえ話で書き出すことを許してほしいのだけれど、ケン・リュウを読んでいておもったことは「蒸留酒っぽいな」だった。ひたすらに透き通っている。短編の中で卓抜なアイデアとギミックを何一つ殺すことがないままに、しかし余計なものを削ぎ落し、情緒と詩情の純度を高めた物語たち。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ずっとこういうものが読みたかったと思っていた、それにそのまま呼応してくれたような本だと思う。

具体的に素晴らしい点を書き連ねよう。


著者は中国系アメリカ人。中国で生まれ、幼くしてアメリカに渡ったというバックグラウンドを持つ。それだけに中華・オリエンタルな雰囲気の短編が目立つ。中華小説というわけではなく、中華圏の文化的背景を持つ人物が西洋(や宇宙や多次元)等の異文化に触れ、擦れ合い、変容していく様を書きつける筆致がまず凄まじい。中国から米国に嫁いだ主人公の母の感情の揺らぎ『紙の動物園』、英語圏の弁護士と難民の中国人男性の摩擦『月へ』、台湾米軍基地内の学校でアメリカ人生徒にいじめられる中国人の少女『文字占い師』。『文字占い師』では台湾の歴史的経緯/民族問題を臆することなく切り取っている。グローバリゼーション、という語彙を嫌でも想起させる描写はとても現代的であるとも思う。


異文化のぶつかり合い・社会の変容という主題は収録されている多くの短編で語られていて、オリエンタルとオキシデンタルという軸に限らない。というよりも「異質」というものがおそらくは著者に通底したテーマであるように思う。異星人や孤立した未開の地とのエンゲージ、次元や時間軸の異なり。認識を異にするものたち出会うときそこに生まれる感情。世界の変化。


SFではよく扱われるテーマかもしれない。それでもこの短編集が違うのは、ハードな世界感のなかに、人物の情感・情緒をふんだんに残しているところだ。そういう点で僕が白眉に感じたのは『円弧』だった。16歳で子供を作ってグレて、赤ん坊をほっぽって家出しちゃった女の子のロードムービーはいつしか不死人と天寿を待つ人の愛の物語に変わる。何を言っているのかわからないとは思うが、こういう表現しか今のところできません。


風味も豊かでキレも抜群、人生のコクも強烈に味わえる。そういうお酒みたいな物語だった。